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2016/05/31

あやめ十八番『ゲイシャパラソル』

鮮やかに、花が開いた。
あやめ十八番の新作『ゲイシャパラソル』で、堀越涼さんの作劇が一段階大きくなった、という印象だ。
平成60年代の東京深川、芸者のお座敷が舞台。
擬古典ならぬ擬大正時代(?)のような、大正か昭和初期の雰囲気で未来の東京が語られる作品だ。


公演のパンフレットで堀越涼さんのインタビューをした関係で1シーンの稽古を拝見して中盤までの(結末まで至らない)台本を読んでいたけれど、パンフレットでも書いたとおり、話がこの先どう展開するかはまったく予測がつかず。これは初見のお客様が作品途中で抱く感想ときっと同じだと思うのだが、果たして本番で通して見て、ラストに至るまでの押し寄せるような展開に引き込まれた。劇中「ファンファン」と呼ばれる中国の台頭の話や名前の売買、戸籍を売った日本人たち、選挙の裏面などそれだけで一つの物語が書けそうな素材をたくさん投げ込み、粒立たせ、さらにそれが一人の芸者の恋に収束する。


印象が際立つシーンはたくさんあって。
自分の名前を売った芸者たちが名乗りを上げるシーンの鮮烈さ。不見転芸者(小口ふみかさん)と幇間(安東信助さん)の切ない恋。冒頭のダンス(振付ミヤタユーヤさん)。あるいはお座敷遊びのトラトラ、金毘羅船々の現代的なアレンジ(楽隊の吉田悠さん。今まであやめ十八番の音楽を担当していた吉田能さんとはご兄弟なのだが、能さんよりももっとソリッドでシャープな感覚があるのが作品に異化効果をもたらした)。
こんな様々な要素がぶつかり合わずに一本の芯に収束していくのは、堀越さんの手腕であって。また構造的にも、今までは重層的に物語が錯綜するスタイルの作品が多かったが(『江戸系 諏訪御寮』『淡仙女』など)要素は多くても、構造はそこまで複雑でなく、なおかつ観客がついていけなくなりそうなところは野良猫(木原実優さん)が説明してくれるので(笑)、今までよりストーリーラインはつかみやすいものになっていると思う。


そして、芸者。今の20~30代の作・演出家の方で芸者の世界がリアルに描ける人が他にいるかと考えるとそれは稀有なことだと思う。堀越さんが花組芝居『花たち女たち』などで芸者の役を演じている経験を活かし、また出演者もその演出に応えた。(演技的にはやはり堀越さんが演じる菊弥の芸者としての存在の仕方、「擬大正」の時代感は群を抜いているけれども)


ここで語られるのは深川でただ一人、名を売らない芸者、仇吉。実際に深川芸者は男名前をつけていたそうだが、そんな「意気と張り」を持つ彼女の内面が徐々に明かされていくのが一つのドラマとなる。演じるのは大森茉利子さんで、個人的には大森さんが演じて私が拝見したものの中では一番好きかな。前半の強くきつい芸者から、彼女の秘められた過去と恋にフォーカスし内面を見せる変化が瑞々しい。彼女の演技からふと「自分の存在って何だろう?」と思いを巡らせるものがあった。(強いて言えば、前半のきつい部分にももう少しいろんな色が見えてくれば、より素晴らしいかと)

そして、過去に仇吉と恋をした傘職人の笹木晧太さんが、すがすがしい存在感で回想シーンを彩る。


存在感といえば。
あまり小劇場の舞台では出てこないような「実存感」があるキャラクターが出てくるのも見どころ。実際に新内語りのお師匠さんでもある新内勝喜さんが三味線を演奏し、芸者に歌(芸)を教えるシーンがある。また、冒頭から登場する「おもらいさん」役の森川陽月さん。物語のキーになる重要な人物で、終わった後に思わず堀越さんに「あの人は誰ですか!?」と聞いたくらい(笑)、どろっとした、心をざわつかせる存在感があった。聞けば、長年演劇と関係ない仕事をしてきて、57歳にして役者を目指して上京された方とのこと。こういう方を見出して(オーディションにいらしたのかな?)適役に起用されるのも、堀越さんの慧眼かなあと思う。また、お座敷で端を発して「政治」的な攻防を繰り広げる男性二人、和知龍範さんと塩口量平さんは肚が据わったところを見せた。


こうしてつらつらと書いてきたけれども、そして普段は職業柄か芝居を見て「ここがこうで、こうだから→この芝居は面白いんだ」と自分の中で編もうとするところがあるのだけれど、うまくその枠組みにはまらないところがあるのを感じていて。あらゆる要素が有機的に絡まって、総合的な一つの塊として、この作品が演劇として面白いと思ったんだなー、と思う。この作品はこういうテーマ!と一言で言えるのなら、演劇にする必要もないし、とにかく125分、作品の世界に没入していたのは確かだ。
『ゲイシャパラソル』、あやめ十八番の新しい代表作の一つとして、花開いた(傘の花も)。

公演は6月5日まで、サンモールスタジオ。『江戸系 諏訪御寮』と交互上演。

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