« 居酒屋ベースボール『ソウサイノチチル』 | トップページ | 心に深くメッセージが沈殿する舞台~ミュージカル『手紙』を見る »

2016/01/24

新派の新しい財産となるべき作品~『糸桜』

市川月乃助さんが歌舞伎から移籍した新派の新作。『糸桜』は「新派の芸」を次代へと継続させるにふさわしい、おそらくこれからも再演を繰り返されるだろうすばらしい新作だった。

河竹登志夫先生の『作者の家』を原作に、河竹黙阿弥の娘、糸(波乃久里子)と、糸の養子となった河竹繁俊(=河竹登志夫先生の父)(市川月乃助)を主人公として描く話。脚本、演出は斎藤雅文さん。

名前のとおり、先代から受け継いでいく家族の「糸」を、6場の時間の変化とともに見せる。

河竹黙阿弥の娘として戯作術を叩き込まれ優れた才能を示しながら、女性ゆえに戯作者にはなれなかった糸。
思わぬ運命の流れから、予期せぬ家族の「糸」を受け継いでいく、繁俊。

この二人の有り様が、歌舞伎の家に生まれた久里子さんと、一般家庭から歌舞伎へ、そして新派へと移籍した月乃助さん自身が重なり合う。現実と虚構の皮膜から、「受け継ぐ思い」が確かに舞台に立ち上がる。
二人の丁々発止のやりとりが大きなドラマを生んだ。

歌舞伎の戯作者の娘の役、ということもあり、ふとした台詞回しにもどこか中村勘三郎さんの面影が宿っていることも感じるのだった。

月乃助さんは、糸を寝かしつけるために歌舞伎の台詞を言う場面などでおかしみも見せながら、戯作者でなく研究者として河竹黙阿弥を次ごうとする苦渋の決意に強い意志をにじませた。

繁俊の妻、みつの大和悠河さんは作中の時間の流れを的確に表現する。
また、メイン3役を取り巻く人たちの厚みが確かに新派の財産であって、この時代の人たちの息吹が伝わって、物語の手触りに実感を与える。瀬戸摩純さんの松井須磨子役が短い出番で印象深く、鴫原桂さんの女中役がその立ち居振る舞いから、今はあまり見られない「よき日本の家庭」を感じさせてもらった。

最初に月乃助さんの新派入団披露には(芝居には出ない)水谷八重子さんが登場。9月に二代目喜多村禄郎を襲名することも発表された。最後に30分の「新春踊り初め」がつく。久里子さんの「雪」は洋楽が交じる趣向だが、この季節らしい美しさと切なさがにじむ。

|

« 居酒屋ベースボール『ソウサイノチチル』 | トップページ | 心に深くメッセージが沈殿する舞台~ミュージカル『手紙』を見る »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/34077/63103107

この記事へのトラックバック一覧です: 新派の新しい財産となるべき作品~『糸桜』:

« 居酒屋ベースボール『ソウサイノチチル』 | トップページ | 心に深くメッセージが沈殿する舞台~ミュージカル『手紙』を見る »