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2016/01/21

居酒屋ベースボール『ソウサイノチチル』

破天荒な人生を送った父親の葬儀を巡るシチュエーションコメディ。の中に、作・演出のえのもとぐりむさんの死生観が色濃く映し出される。当代から次代へと受け継ぐ想いとは何か……そんなことを考えさせられる作品。佳作だった。

まず感じたのは、非常に脚本として練り上げられているということ。23人もの登場人物のしっかりしたキャラクターつけとシチュエーションコメディとしての緻密な構成。居酒屋ベースボールもえのもとぐりむ作品も初見で、予備知識がない中で見に行ったので、この作品力の高さに「きっと熟練した年配の方が書いた戯曲なんだろうな」と想像していた。終演後調べたらえのもとさんは1986年生まれ、29歳とのこと! これには驚いた。ちょっと言い過ぎかもしれないが、東京サンシャインボーイズ(『12人の優しい日本人』)をシアタートップスで初めて見たときの感覚が蘇った。そのときは「小劇場でこれほどウェルメイドで緻密に作られた芝居が見られるのか!」と驚かされたけれど、そんな感覚に近いものを『ソウサイノチチル』から感じたのだ。

現実の生活の中でも、お葬式というのは非常に特殊な状況で、それまで抑えていた感情が爆発したり、これまで隠れていた本性が見えたりする。(実際、火葬場で「まだ死んでない」とお棺に取りすがった方の話とかも聞いたことがあるし)だからこの舞台で見せられるドタバタのあれこれも絵空事の大げさなものでなく、どこか親近感を覚えられてすっと胸に入ってくる。

そして、葬儀の参加者というグループの外側に、葬儀社社長と彼の友人の植木屋、住職という「二代目」の人たちが存在する。亡き親の思いを受け継いで(住職の親は存命)生きている人たちの姿を描くことで、亡くなった人から人は何を受け取ればいいのか、というテーマがより明確に描かれる。

お通夜の後、亡くなったはずの父親が棺の中から蘇った!? というところで始まる物語。様々な人が語る言葉から、亡くなった父親の人柄が徐々に明らかになる。肉体を失った後も亡き人の想いを知ることで、その人と触れ合い、想いを受け継ぐことができるのだという、えのもとさんのメッセージが伝わってきた。最後の話の落としどころというか、決着のつけ方にも非常に納得がいくものがあった。

キャストでは亡き父親役の船戸慎士さん。「棺の中から蘇った父親」という設定で棺の中で寝ている時間が多く、そのキャラクターを様々な登場人物から語られるという難役だが、イメージを集約する存在の確かさがあった。父親の現在の愛人アユ役の八城まゆさんも「奥さんと対立」という類型に陥ることなく、アユの父親への思いを描いて印象的。宮下貴浩さんの、誠実さが見える葬儀社二代目社長のキャラクターの描き方にも好感が持てた。

最後にもう一つ驚くのが、この公演が「3か月22作品139公演ロングラン公演」の一環であるということだ。これだけの作品を一つ作るだけでもどんなにか大変と思うのに22作連続!? と思うともう想像の範疇を超えている。
22作品一覧の当日パンフを見ると『ソウサイノチチル』とは違う傾向の作品も多そうだ。とにかく、他の作品も見てみたい。そう思わせる力は確実にあった。

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