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2015/12/29

シアタークリエ『ドッグファイト』

シアタークリエでオフブロードウェイミュージカル『ドッグファイト』を観劇。
1960年代の若者の恋を描く、と同時に、ベトナム戦争という背景が色濃く絡む。複雑にいろいろな感情を呼び起こされる佳作だった。

タイトルになっている「ドッグファイト」というのは、アメリカ海兵隊員が入隊前夜、女性を連れてパーティを開くという習慣。そのパーティは実は賭けとなっていて、「一番不細工な女の子を連れてきた人が勝ち」……という、なんとも人道的にひどい(許せない)もの。
ただ、こんなにも非道なことをなぜやるか……というと、戦場という非常事態に赴く前のある種「異常」な精神を高めるための「儀式」なんだという。

三人組の海兵隊員(屋良朝幸、中河内雅貴、矢崎広)のうちの一人、エディ(屋良)が選んだ女の子ローズ(宮澤エマ←ラフルアー宮澤エマから改名)。はじめは「不細工だから」という理由で選んだローズだったけれど、やがてエディは本当にローズに惹かれ、良心の呵責が芽生え始める。

女性としては正直、ちょっと見ていて胸苦しくなるような設定の話なのだけれど、そういうものをすべて吹き飛ばすのが宮澤エマさんが作り出すローズの造形。初めてパーティに誘われて、「何を着ていこうか」という昂りと緊張、喜びのあいまじった感情を見せるシーンが、なんとも瑞々しい。それだけに、「ドッグファイト」の意味を知った後のローズの怒りと切なさを歌う1幕ラストが非常に圧巻だった。もちろん歌唱力が十分におありなのだけれど、それ以上に宮澤エマさんの素晴らしいところが演技に共感力が強いところ。ローズの心の波に同調して、私も共に心の旅をしているようだった。

そして、海兵隊員エディの屋良さんもナイーブに動く心情を見せて、ローズとの出会いから彼が変わっていく様子を繊細に見せてくれた。

しかし、彼らの初々しい恋は、エディらがベトナム戦争に行くことでむなしく砕け散る……。

これは非常に繊細に作られた戯曲でもあって。エディの仲間役の中河内さん、矢崎さんがきちんと作品の意図をくみ取って、普通の青年としての部分、そして、「戦争」という非常事態を前にして人間の「タガ」が外れてしまっている部分の両面をしっかり見せてくれていたのが印象的だ。

誰もが経験あるような、恋も若い感情もそのまま見せてくれるミュージカル。であると同時に、人が人を殺す「戦争」の前には人間としての普通の思いはいかにもろく崩れ去ってしまうものなのか、という強いテーマも突き付けられる。終わった後に深い余韻を残す作品だった。


※最後に、ちょっと話が作品についてとはそれるかもしれませんが…。
作品冒頭からずっとリアリティを感じながら(時には、ローズの心情に同調して涙しながら)見ていたのだけど、私にはふっとリアルさが抜けたように感じられたのはベトナム戦争の戦闘シーンで…。
もちろん役者さんは本当に真剣にやってらっしゃるのは十分感じた上で。

これは何年か前にニューヨークで『アメリカン・イディオット』を見たときの経験がそうさせているのかもしれないけれど。『アメリカン・イディオット』ではやはり、主人公の一人が戦争(おそらくは湾岸戦争)に志願して、戦闘で負傷し足を失うというシーンがあるのだけど、ここの戦闘シーンのあまりの迫真ぶりが本当に怖いほどで、私は見ていて衝撃を受けたので。アメリカはご存知の通り軍隊がある国で、自分は戦争に行かなくても、自分の友達や兄弟、身近な人が軍人だったりするだろう。役者さんに「戦争で戦う」ということのイメージが明確だから、ミュージカルの一場面であってもそれが再現され、追体験されるようなものになるのだろうなと感じる。
逆に言うと、戦争シーンがリアルにならないことは、日本の幸せさを象徴しているのかもしれないし、もしかして、舞台の戦闘シーンが本当にリアルになったときは、日本もヤバイときなのかもしれないけれども。

舞台もまた社会の縮図であり、現実を移す鏡なのだな、とも思うが、何がリアルか、舞台の上でのリアリティとは何か、ということも改めて考えてみた(結論は出てませんが)。


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