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2014/11/03

新たな100年の扉を開けた~宝塚OGバージョン『CHICAGO』(ゲネプロ)

宝塚OGバージョン『シカゴ』をゲネプロにて、「ビリー麻路さきさん・ヴェルマ水夏希さん・ロキシー貴城けいさん」と「ビリー姿月あさとさん・ヴェルマ湖月わたるさん・ロキシー朝海ひかるさん」の組み合わせで拝見する。

見始めてすぐに感じたのが非常なる違和感があることで。宝塚はいわずもがな、歌舞伎も花組芝居もスタジオライフも(笑)見ている私なので、男性だけ、女性だけの演劇には慣れているのに、「えっ、この『シカゴ』を宝塚OGでやるの!?」という驚きがあった。

これが『エリザベート』やそれこそ(今来日公演中の)『雨に唄えば』だったら、そんなに驚きは感じなかったはず。宝塚の男役メイクと華麗な衣装で、ミュージカルであっても(清く正しく美しくの)宝塚の世界、ということで違和感は覚えなかったと思う。

しかし、ここで演じられているのは、まさに清くなく正しくなく美しくない『シカゴ』。そして、出演するのは、普段『シカゴ』の舞台で見慣れている筋骨隆々の男性でなく、女性が演じている「男」。メイクは浅黒くしているが、肩パットや胴布団なし(宝塚で男役を演じる場合は、体型補正のため胴布団というものを衣装の下に着用する)。女性の肉体であることがわかるのだ。

もしかしたら、この違和感は宝塚が初めてブロードウェイミュージカル『オクラホマ!』や『ウェストサイド物語』を演じたときに観客が最初に覚えたであろう違和感(=今までの宝塚が描いてきた世界とは違う)と同じものだったかもしれない。

けれど、見続けていくうちにその違和感は次第に消えていき、オンリー女性キャストによる『シカゴ』が新たな世界を生み出しているという興奮に取って変わっていったのだった。

まず、一番驚いたのがビリー・フリンの造形。
特に『Razzle Dazzle』で顕著なのだが、華やかなミュージカルレビュー全盛時代のイメージの場面に宝塚元男役トップスターの麻路さん、姿月さんは圧倒的な存在感で君臨する。
私もブロードウェイや海外公演含めて10回近くは『シカゴ』を見ているけれど、これほどこの曲を堂々と、自信を持って表現できている人を見たのは、この宝塚OGバージョンが初めてだ。

つまり、宝塚元男役トップスターの人は、長い年月「華やかなミュージカルレビュー」の世界に生き、『シカゴ』出演のずっと前から『Razzle Dazzle』の世界観をすでに身につけている人たち。そして、世界中のビリーを演じた役者さんの中で、そういう人たちは殆どいないのではあるまいか…?

最近の『シカゴ』のビリー役の配役を例に挙げると、R&Bの人気者アッシャー、『RENT』のオリジナル・ロジャー役であるアダム・パスカル、来日公演では元バックストリート・ボーイズのケヴィン・リチャードソンなど。『Razzle Dazzle』の世界観とは正反対の活動をしてきた方たちがどうやって表現するか、という逆転の発想の面白さで見せている例が多いと思う。

だから、今回宝塚OGバージョンを見ることで、私としては初めてビリーが『Razzle Dazzle』やビリー登場の曲『All I Care About』を歌う意味が見えてきた気がする。そして、ビリー役のキーワード「スター」が今までにないほどに強く、心に響いてきたのだ。(麻路さん、姿月さんが自分のことを「スター」「ビッグスター」というときの、なんという説得力!)

今回目についたのが、『Razzle Dazzle』の場面で、歌うビリーに星奈優里さんは寄り添って踊っていること。(従来の『シカゴ』でどういう振付だったかはちょっと思いだせないが)ここでの星奈さんは、前後の場面とは存在の仕方が違い、まるで宝塚の娘役のような立ち位置でビリーをサポートし、寄り添っている。そう、この曲の世界では男性がリードし、女性がサポートするという価値観があることを感じる。男性中心の世界と女性たちがたくましく生きる世界の違いを、ビリーの華やかなレビュー形式の場面と女性たちのハードな表現の場面とで際立たせているのが、『CHICAGO』の持つ劇構造なのだ……ということに、改めて気づかされた。

もう一つ、ロキシーに殺される男性フレッド・ケイシーも女性が演じることによって(香音有希さん好演)、彼の男性性のパロディ(戯画化)にもなって、通常のバージョンとは違う意味合いを帯びてくるのだな、ということも感じた。

正統派で堂々たる佇まいの麻路さんとニヒルでクールな姿月さん。お二人の役へのアプローチは違うが、それぞれに魅力的なビリー像を作り上げていた。

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そしてなんといっても、『CHIGAGO』の華である、ヴェルマとロキシー。
夢の世界に遊ぶミュージカルでなく、よりリアルで自分を見つめないとできない作品に、元宝塚男役トップスターの皆さんが果敢に挑戦し、見事な成果をあげていた。何より嬉しくて感動的なのが、トップを究めた人たちが、今もなお新たなチャレンジに取り組む姿を見せてくれたことなのだと思う。
そして、「男より男らしく」華やかな存在、ビリーとの対比もあって、レディースたちの迫力がさらに増して感じられるのかもしれない。何より、普通の女優さんにはなかなか出せない、宝塚の元男役トップスターだからこそ出せる強さが彼女たちの演技にはあるのだ。

水夏希さんのヴェルマを見て、ふと昨年のトニー賞主演女優賞を取ったパティナ・ミラーさん(『PIPPIN』)を思い出した。パティナさんは(元々は男性が演じていたLEADING PLAYER役を女性が演じるということで)すごい肉体改造をしてPIPPINに臨んだそうだ。『シカゴ』という骨太な世界を表現するためには肉体そのものから発するたくましさが必要で、水さんには全身からそんな力強さがあふれていたように思う(=それこそが、ヴェルマの生命力ともいえる)。稽古開始前からフォッシースタイルのダンスのレッスンを始めたとのことで、そんな地道な努力が実を結んだのではないか。

湖月わたるさんは今回の公演の前、『DANCIN' CRAZY 2』の1部としてダイジェストバージョンの『シカゴ』を演じてらっしゃっただけあって、役のつかみ方がとても的確。ヴェルマという役を硬軟幅広く演じてらしたと思う。ダンスのダイナミックさも魅力的。

同じく『DANCIN' CRAZY 2』でも出演していた朝海ひかるさんのロキシー。計算高くて自己中心的だけどどこか憎めないところがあって、とてもチャーミングだった。ロキシーのダンスって(役柄から)一見するとてれてれっと踊ってるような、ルーズに見える振りがついているところがあるけど、それでも体幹をしっかり意識して踊ってらっしゃるのが見て取れて、そこがなんともフォッシーぽくて、『シカゴ』に体現される女性らしいなと思ったりした。

貴城けいさんはノーブルな持ち味の方だけれど、ロキシーにご自分から近づいていった感覚。ご自分の柄ではないと思われる役にもポジティブに挑戦する姿が素晴らしいと思う。何より美しいし、可愛らしさのあるロキシーでした。

そして、ママ・モートン役はちあきしんさんが見事な歌唱を聞かせるが、なんといっても初風諄さんの存在感がひときわ際立つ。ハニャックの最後のハンガリアンダンスの前のやりとりの切なさも印象的だ。
そして、そのハニャック役の星奈優里さん。最初の登場シーンからくっきりと印象つけられるところがさすがで、儚そうに見せながらもしたたかさもある女性という複雑なところを的確に描き出した(今まで見てきたハニャック役で、ここまで彼女の存在を意識してきたことはないので、さすがだなあ、と)。蒼乃夕紀さんも見事なスタイルとキレのあるダンスで見せる。

磯野千尋さんのエイモスが秀逸だ。ロキシーの夫で誰からも顧みられない男の悲哀を、決して重苦しくなく微笑ましく演じる。これだけリアルな役を演じられるのは、磯野さんが男役として宝塚の舞台で積んできたキャリアのたまもので、本当に素晴らしいなと思う。

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宝塚歌劇が生まれて100年。様々なチャレンジを続けてきた中でも、たくさんのOGを日本の演劇、芸能界を送りだした功績は計り知れない。そして、100周年の締めくくりに相応しい、世界に類を見ない新たな『CHICAGO』を生み出したことも、次の100年に向けてのエポックになるに違いない。


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