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2014/08/19

『マクベス』~子どもに見せたい舞台シリーズvol.8

開演5分前。普通の格好の男性が普通の感じで舞台に上がる。そして舞台上で背広に着替え出す。生着替え(笑)を見つめる5分間の後、舞台は始まる。
「子どもに見せたい舞台」という企画での第8回公演。演劇はきれいな格好をした人たちが出てきて自分たちと隔絶した世界を繰り広げるもの……でなくて、私たちと地続きのところにある。はずなのに、一気に大きな嘘(マクベスの血みどろの物語!)が舞台上で繰り広げられる。(だって、演じている人たちは、自分たちと同じ「人」なんだもの)そんな、演劇の魔法が見られるのが今回の『マクベス』だ。

演出の加納幸和さんは、三歳の時に初めて歌舞伎を見て、まっさらな目や耳で物事を摂取する経験をしたということを当日パンフレットに書いている。
だから、ことさら子供向けの設定にせず、テキストも坪内逍遥訳を参考文献としたものになっているし、わかりやすい衣裳を身につけず、背広だけ。舞台美術もヨーロッパ風でなく、扇風機や大きなテーブルがある現代の部屋の中になっている。
(子供の想像力や理解力を信用するというのは、先日見た市川染五郎さんの『カブキ国への誘い』も同様であった。ガチャピン・ムックやカブキぼん!ダンスなど親しみやすい要素は取り入れているものの、「一軸を紛失(ふんじつ、と読みます)」といった、子供は聞き覚えがない歌舞伎の言い回しや悪人の「戻り」など、歌舞伎の本質をちゃんと含んだ公演だったのは、本作と共通するものがあると思う)

逆に大人の目線からすると、たとえば「『マクベス』の魔女が3人じゃないの!?」と固定概念にとらわれがちになってしまうのだけれど(笑)。ダイナミックなダンスや背広を着た6人の人たちが衣裳もそのままにクルクルと何役も演じている姿に頭を次第にほぐされていって、いつもは膨大なテキストの波に溺れてしまって見えなくなりがちな『マクベス』の本質にふっと近づいていけるような感触があった。

それは、マクベスの哀れさ。ふっとした瞬間に(魔女のささやきにより)心の闇に囚われてしまう男の翻弄される有様が、非常にリアルに伝わってきたのだった(押田健史さんが好演)。

演劇的な「嘘」という点では、マクベス夫人を演じた美斉津恵友さん。背広のままであっても、そこで表現される感情は女性のものであるという説得力。しかも、生身の女性ではなかなか表しきれないマクベス夫人の強さが前面に出てくるのも、男優が演じるからこそだと思う。

そして、哀切のラストシーンは非常にグサッと胸に刺さる光景で終わる。そのスパーンと終わる幕切れは非常に鮮やかで、怖い。(ラストシーンの「怖さ」でいえば、去年ニューヨークで見た、『マクベス』のストーリーによる体験型演劇『SLEEP NO MORE』と双璧)まあ、私は子供じゃないんで、泣きませんけど(笑)。

花組芝居の役者さん、丸川敬之さん、谷山知宏さんはさすが、坪内逍遥の古典的な台詞もしっかり表現できるなー、と。身体表現力が豊かな蓉崇さん、チャーミングな横尾瑠尉さん。と6人だけでこの長尺の物語が表現できるのも、またマジックであるなと思う。

私が観劇した16日の初日公演は豊島区長も臨席。ちなみに、冒頭の登場シーンで着ているのは本当に私服だそう(笑)。

公演は24日まで、あうるすぽっとにて。

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