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2013/09/21

パワーと苦みがある物語~スタジオライフ『ビートポップス(BEAT POPS)』観劇しました

スタジオライフは新人を迎えるとその人たちを中心とする新人公演を上演する伝統がある。作・演の倉田淳さんの初期の作品『WHITE』が上演されることが多いのだが、今回はスタジオライフとしては三度目の上演『BEAT POPS』を上演。初演年は不明だが、2度目の上演は1996年で、山本芳樹さんが主役の道太を演じたとのこと。台本的にはおおむね1996年上演のものに沿っているようだ(今回の芝居上の設定も「1996年がリアルタイム」になっているので)。

たとえば宝塚の新人公演だと本公演の内容を新人のみで演じるのだが、スタジオライフの場合は新人たち(今回は11期生にあたるJr.11と入ったばかりの研修生にあたるフレッシュ)だけでなく先輩たちも出演する。

若者が自分たちの壁や殻を乗り越えて飛び出そう……というテーマは『WHITE』と共通するものがあるが、『BEAT POPS』ではそれに付け加えて、若者たちと彼らを見守り応援し、支える大人たちとの対比という視点が際立つ。作中の役柄としては演じるのはもちろん、劇団の先輩として彼らが一人前の役者になるために支え指導する姿がオーバーラップして、あたたかい手触りと、なおかつ苦みがある作品となった。

ダブルキャストの公演のうち、私が観劇したのはLOVEチーム(18日)。
ストーリーは「17歳の道太は引きこもって不登校になってしまっている。彼の母親は往年のグループサウンズのリーダー、ポーのファンで家の壁に彼の写真を張っていた。ある日、ポーがポスターから抜け出てきて、母親がポーと偶然出会ったという28年前へとタイムスリップさせる。行き先はBEAT POPSというディスコ。そこで自分と同年代の母親に出会った道太は、今は母と離婚してしまった自分の父親を探し始める……」というもの。

1968年の若者たちと触れ合うことで道太は変わり始める。まっすぐに走り始める若者たちを応援する大人たち、という構図はあるものの、決してそれだけではない。道太が自分の心のトラウマを乗り越えて走り出す姿はとても清々しいけれど、その先にあるのは輝かしい未来だけではないのだ。そのことを老ポー(1996年現在のポー)は知っている。将来は、苦しみもそして決して乗り越えられない壁があることがわかっていても「走れ」と道太に訴えかける老ポー(ちなみに、ポーの言葉は道太には聞こえていない……おそらく)。老ポーを演じるのは倉本徹さん。倉本さんは劇団では新人の役者さんが入団すると芝居の基礎から教える役目を担当しているという。新人たちと向かい合っている倉本さんご自身の姿と、若者を見つめる老ポーがオーバーラップして、熱い思いが劇場中に力強くほとばしったのは忘れられない。

(急に余談ですが。5年前くらいの雑誌の取材で松本慎也さんとスタジオライフのSenior(『トーマの心臓』初演以前入団の方たち)の皆さんの座談会を担当させてもらって、そのとき松本さんが「新人たちに一生懸命教えても、その子たちが皆退団してしまって凹んだことがあったけど、倉本さんは毎年変わらずに新人たちに向き合ってるのがすごいなと思う」というようなことをおっしゃっていて、倉本さんが「別に苦労して教えてる感覚はないよ、好きなだけだよ」とひょうひょうとおっしゃっていたことがあったな……と思い出しました)

そして、ポスターから抜け出したポーを演じた牧島進一さん。牧島さんも劇中七変化(笑)を見せつつ、彼らを見つめるあたたかな視線を常に舞台に感じさせていたのがよかった。牧島さんのポーと倉本さんの老ポーが別物にならず、うまく重なり合っていたのも効果的だった。牧島さんに後輩たちとの座談会で先日取材させていただいたときに、劇団の先輩として自分が歩んだ道を見つめて、後輩たちに「自分たちも頑張るから僕らを信じて思い切りやってほしい」とおっしゃっていて、なんて素敵な方なんだろうとそのとき思ったのだけれど、そんなお人柄の素敵さが芝居にもにじんでいたのではないかと思う。

1968年のレイコと1996年のレイコを演じた緒方和也さん。17歳の時の若々しい女性の感性と、45歳になったレイコの挫折を抱えつつもなんとか道太に向かい合おうとする姿の対比が非常に生きていた。「平成25年度時代の文化を創造する新進芸術家育成事業 日本の演劇人を育てるプロジェクト」の一環の公演で、育成対象者の一人である緒方さんが、今作の中では若者たちを支える立場を担い、しっかりと任を果たして心を打つ芝居を見せてくれたのも感動的だ。

こうして紆余曲折を経て迎えるラストシーンは、とても胸に沁み入ってくる。ラストは全員が歌い踊る終わり方なのだけれど、よく見ると、パワーではじける若者たちと、単純にはじけるのでない、どこか複雑で苦みをたたえた表情をしているポーと老ポー、そしてレイコがいることが見える。若者たちと大人の対比がラストシーンにもよく表れていた。

若者たちの前途は決して洋々としたものとは限らないけど、でも「頑張れ!」という思いに深く共感できた。
今回の舞台は劇団というもののあり方が見事に芝居にリンクして、作品としてのメッセージをより奥行き深いものにしているなと思った。

(※……と、そこそこ年が行ってる(笑)私は思いますが、道太や若者たちにまっすぐ感情移入できる若い観客の皆さんもたくさんいらっしゃるはずで。きっとご覧になる方によって、共感ポイントは変わってくると思います)


先輩たちの思いをしっかりと受け止めて、今できる限りのことを思い切りやったという印象の新人の皆さん。ディスコという設定で、バンドの生演奏による歌に思いをぶつけながら演じた。(この音楽の使い方も非常に効果的)

藤森陽太さんの道太は、ナイーブに心を揺らしながら、最後のブルーハーツを歌う感情の爆発まできっちりと役柄を演じ切った。鈴木翔音さんも等身大の若者像を勢いよく演じる。次回公演LILIESで主役を演じる二人だが、きっと今回の経験が役に生かされることと思う。ノブコ役の若林健吾さんは全然女の子の所作ではないけど、ある種力技で(笑)パワフルに押し切った感じが逆に好感が持てる。始まって1時間半後くらいに登場する、学生運動に身を投じている大学生役の仲原裕之さん。それまで舞台で続いてきた芝居とは、一人まったく色の違う演技を見せてはっとさせられた。若者の役だけれど、彼が内に抱えている苦みが静かに伝わってきた。

(公演は23日まで、ウェストエンドスタジオにて)

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