« THE LOVE SHOW来日公演「くるみ割り人形 R指定」 | トップページ | シェイクスピア劇の新たな発見~座・高円寺『リア』 »

2013/05/13

花組芝居 「花組HON-YOMI芝居『婦系図』」初日観劇しました

リーディングとしては破格の2時間45分(開幕前にスタッフさんから上演時間が伝えられると、客席がザワザワした(笑))。でも、実験的な試みをする「芝居」としてはとても妥当な時間。

そう、花組芝居で上演されている「花組HON-YOMI芝居」は台本を手にして読み、衣裳はつけないというスタイルを取りながら、キャスティングや演出などで花組の新たな可能性を探るシリーズ、ということのようだ(私見)。
(以下、配役等にも触れますのでこれからご覧になる方はご注意下さい)

ちなみに前回上演は普通の芝居のスタイルで2001年に上演(タイトルは『泉鏡花の婦系図』)。当時の台本から約50ページカットしつつ、劇中音楽はそのままとのこと。
会場は花組芝居が普段稽古場として使っている「セーヌ・フルリ」。アトリエ公演なので客席とステージ部分がフラットでアクティングエリアは客席から限りなく近い。正面向きに出演者数の椅子が並んでおり、演じる人がその前にあるアクティングスペースに出てくるという形。その席にずっと控えているわけではなく適宜、登退場があるのがダイナミックなリズム感を生む。

前回のHON-YOMI芝居『天守物語』は紋付き袴姿だったけれど、今回は和服の四人を除いてはスーツスタイル。(概ね自前のもので、黒上下白シャツネクタイなしの早瀬主税役の美斉津恵友さんの衣裳との対比で決めていったとのこと。だから、主税以外は皆さんカラーシャツなんだそうだ。なるほど)女性役の方もスーツ姿で演じている。

衣裳や道具がない分は語り(原川浩明さん)が補う。とはいえ、役者さんの技量が丸裸になってしまう舞台だ。泉鏡花の流麗な台詞に流されず、それを芯を持って表現することが、多分今回の公演で一番求められていることなのかなと思う。三島由紀夫の台詞などでもそうだけれど、様式性とリアルさ、両極端のものを同時につかむこと……それが、加納幸和さんの作品作りであり、演出だ。だから、初めは怒涛のような鏡花の台詞に「…えっ……?」という戸惑いがあった観客もやがては真剣に聞き入り、演者と同じように呼吸をして、お蔦の死に涙するのだ。

さて、作品の内容について。

『婦系図』というと「湯島の境内」の場面「切れるの別れるのって、そんなことは、芸者の時に言うものよ。…私にゃ死ねと云って下さい」というのが一般的なイメージだと思うのだが、この台詞は実は泉鏡花の小説にあるものでなく、後の舞台化のときに付け加わったもの(柳川春葉の脚色で舞台化した際にこのやり取りを付け加えて、泉鏡花自身も気に入って、後に泉鏡花の戯曲「湯島の境内」でも『別れるの、切れるのって……』を入れたのだそうだ)。花組芝居版は泉鏡花の小説をもととして舞台化していて、この台詞は出てこない(前回上演のときは「湯島の境内」の部分だけ劇中映像にして取り上げていたけど、今回はナシ)。

元芸者のお蔦(二瓶拓也さん)とドイツ語学者の早瀬主税の愛し合う二人が、主税の師匠・酒井俊蔵(小林大介さん)の反対により別れざるをえなくなる、というのが前半。酒井俊蔵の娘、妙子(谷山知宏さん)の縁談を巡って、縁談の相手・河野家に対する復讐を主税が遂行するというのが後半。

これは、主税という人のピカレスクロマンであり、あるいは、縁談にあたって妙子の系図を改める物語であり、河野家の女性たち……河野菅子(堀越涼さん)、河野道子(八代進一さん)ら……の系図の物語でもある。

今回のキャスティングとしては、美斉津さんの主税と二瓶さんのお蔦が一つのポイントかと思う。まっすぐな気性と、女性たちを次々に虜にしていく部分と、一言では表現しきれない人物像を持っている主税。つなげて見せるというよりは、場面場面を生きたものとして描いて、非常に勢いがある主税だったと思う。ヤモリのシーンの見得と大団円での台詞の力強さも迫力があった。お蔦の二瓶さんは健気な女性像を丁寧に演じる。泉鏡花の「耐える」女性ってもしかしたら二瓶さんの持ち味とは違うのかもしれないけれど、女形役の一つの典型をきちんと演じることが今後にとってとても得難い経験となるはず(なんか偉そうな書き方で申し訳ない)。上にも書いたけれど臨終のシーンの芝居でぐっと引き込まれるものを感じた。

個人的な感想だが、12年前の観劇の記憶は見ているうちにどんどん思い出されてきて、当時の役者さんの声が頭をよぎったのだが、それが顕著なのはなぜか女性の役の方。偶然、初演の妙子役の森川理文さんが見にいらした(お元気そうで、よかった!)せいかもしれないけれど。それだけ、タイトルどおりに「婦系図(婦人たちの系図)」が自分の中で鮮やかに印象づいていたのだと改めて感じた。
今回もクライマックス近く、河野家の姉妹が連なって出てくるところの、こしらえも何もないのに醸し出される華やぎが不思議で、印象に残る。

今回の新配役では、谷山知宏さんが妙子。ある意味で妙子を中心にして回っているところのある物語で重要な役。普段の役どころと違う、チャレンジングなキャスティングの一つだが、役どころとご自分らしさとのバランスをこれからどう見せていくか。初演時、大輪の花のような鮮やかさと驕慢さが非常に印象的だった河野菅子(加納幸和さんが演じていた)は堀越涼さん。今はまだ自分の中では前回のイメージが強すぎる状態から抜け出せてなくてごめんなさい(それは結構台詞回しも加納さんを移していたから?)だけれど、主税に対する複雑な感情表現の繊細さが堀越さんらしいところ。そういえば加納さんの菅子は「驕慢」という感じがあったけど、堀越さんは「驕慢」さはない気がする。男性を翻弄しているように見えながら、実は翻弄されてしまっている裏腹の切なさが菅子なのだろうか。もう一役演じた、すりの万太は愛らしかった。

芸者小芳の加納さんは芸者さんならではの粋な雰囲気、そして子への愛情をしっかり見せて、泉鏡花の世界を見事に体現した。スーツでも芸者にしか見えないってすごい。前回小芳がぴったりだった八代進一さんは河野道子。女性の心情のリアルさが目の前を通り過ぎる横顔ににじんで見えた。

酒井俊蔵役の小林大介さんは、人物の大きさがあって素敵。酒井俊蔵って理不尽なところがある人だと思うけど、それでも説得力があるのが面白いなと思う。説得力といえば、クライマックスにいきなり出てくる河野英臣役、水下きよしさんの迫力! こういう理屈でないところで成立させてくれるのが芝居の楽しさだ。

河野英吉役の桂憲一さんは若干緊張気味の客席の心を冒頭でほぐしてくれた(笑)。膨らみがある役づくり。め組の惣助の丸川敬之さんは舞台から飛び出していくくらい(笑)にイキがよく、ストレートさが快い。
原川さんの語りが非常に的確でリズム感があり、イメージを喚起しやすいものだったので、観客としてはとても演劇世界に入りやすくなったと思う。

最後に余談として。坂東三津五郎さんが私の何人か先の並びの席でご覧になっていた。初めは気づかなかったのだけれど、物語クライマックス、主税と河野英臣との対決のシーンで食い入るようにご覧になっている姿が目に入ってきて。(私だけでなく、私と並んで見ていた友人も同じタイミングで三津五郎さんに気づいたようだ)まるで自分で演じているくらいのテンションが感じられて、役者さんというのはこれほどまでに(いい芝居なら)全身全霊の集中力で受け止めるものなのか……とちょっと感心してしまった。

余談もう一つ。劇中に日食が出てくる。初演のときは日食のイメージが具体的にはなくてそれほど印象に残ってなかったのに、昨年の皆既日食経験を経た後では、日食が芝居と重なって非常に鮮やかなイメージとして連なって感じられる。経験の有無も観劇には大きく影響を与えるものだなと改めて思う。いろんな経験含めて、目の前で繰り広げられている芝居が幅広く受け止められるようになりたいと。観客も日々精進が必要!

花組芝居 花組HON-YOMI芝居『婦系図』、公演は5月18日(土)まで。会場はセーヌ・フルリ(二子玉川)。チケットは平日公演が狙い目とのこと。

|

« THE LOVE SHOW来日公演「くるみ割り人形 R指定」 | トップページ | シェイクスピア劇の新たな発見~座・高円寺『リア』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/34077/57377450

この記事へのトラックバック一覧です: 花組芝居 「花組HON-YOMI芝居『婦系図』」初日観劇しました:

« THE LOVE SHOW来日公演「くるみ割り人形 R指定」 | トップページ | シェイクスピア劇の新たな発見~座・高円寺『リア』 »