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2012/11/17

新演出版『レ・ミゼラブル』を韓国で見てきました

新演出版の「レ・ミゼラブル」を見に、韓国まで行ってきました。現在、ソウルから電車で40分ほどの竹田駅、竜仁アートホールで公演中です(この後韓国各地を巡演し、ソウルでは来年4月からオープンとのこと)。韓国人キャストでの公演で、私が見たときはプレビュー期間中で外国人スタッフの姿も多数見られました。(プレビューでも内容は本公演どおり)

演出上の大きな変更点としては、盆(回り舞台)を使用しないということ。ツアー公演を可能にするという狙いもあるようです。マット・キンリー氏の美術は、映像と大道具を融合させるという表現が特徴です。日本ではスタジオライフの「PHANTOM ~THE UNTOLD STORY~」と「PHANTOM 語られざりし物語~THE KISS OF CHRISTINE」の2作品でマット・キンリー氏が美術を担当していたので、ライフ版PHANTOM観劇が図らずもレミゼ美術の予習となりました。

盆を使わないということで簡略した装置なのかな…という予想は裏切られて、前の演出版よりも大掛かりな装置が出てくるところが目を引きます。バリケードは出てこないのかとなんとなく思い込んでいたんですが(前演出版の回転しながら出てくるバリケードではないものの)、ちゃんとバリケードも出てきます。
個人的な感想としては、1幕目は「ああ、角度を変えればこう見えるのか」とあまり違和感なく、かつ興味深く見られました。続いて2幕は正直言って、盆を使わないで表現するのに苦心したんだな、と思うところもあり。でも、最終的には「レ・ミゼラブル」らしい深い感動が得られました。

(以下、新演出版についての詳細に触れていますので、前情報を入れたくない方はスキップして下さい)

大きく分けると、舞台美術の変更、それに伴う登場人物の動きの変更、そしてキャラクターの変更があります。
舞台美術としては、原作のヴィクトル・ユゴーの絵を背景映像に使いつつ(全部ではない、と思います)かなり大掛かりなセットで見せます。左右袖から出てくる家を模したセットと、開閉、回転できる大きなパネルがメインかな。
映像との融合としては、暴走してくる馬車や、1幕最後の行進に合わせて背景が後ろに動くことで非常に立体的に見せるというものがあります。私の隣で見てた人が暴走してくる馬車がこっちに向かってくるのを見て「うわっ」とびっくりしてたくらい、迫力あるものです。

ジャベールの自殺の場面も映像との融合。上述のスタジオライフの「PHANTOM」で女性が下に落ちるシーンがあって、その落下する女性の映像が迫力あったので「ジャベールの自殺の場面もこういう表現なのかしら」と予想してたんですが、実際は違いました(笑)。それとは違う表現ですが、非常に迫力のある落下になってると思います。

また、スタジオライフ「PHANTOM」でクリスティーヌがオペラ座の地下水路を歩いているシーンで役者の動きとバックする映像とを融合させていたのですが、これはマリウスを背負ったバルジャンが下水道を歩いていくシーンの表現に近いものでした。外に出るまでにいろいろな移動角度を見せてるので、今までよりもバルジャンが長時間マリウスを背負ってるように見えたんですが……違うかな?
そしてバリケードから下水道まで下に下りていく映像もなかなか面白い効果。これは、「PHANTOM」ではレミゼと逆バージョンで下から上というのがあって(オペラ座の下からオペラ座屋上まで映像が移動)、「PHATOM」がマットさんの美術の予習に相当なったなあと思いました(笑)。
スタジオライフ演出の倉田淳さんはレミゼ新演出版の効果を見て、「ぜひマットさんに美術をお願いしたい」と思ったとのことなのですで、当然なのですが。

1幕後半のプリュメ街にあるバルジャン邸は、建物実物が登場。門を乗り越えたマリウスが、建物2階の窓に向かって石を投げてコゼットに合図する、という設定に。2階窓から出てきたコゼットと下にいるマリウスと歌うので、一瞬「ロミジュリ?」と思ったり(笑)。でも、すぐコゼットが外に出てきて、近くで歌いますが。

また、具体的な装置を出すことで印象が変わるシーンも。1幕冒頭の船をこいでいるシーンは、舞台正面向きで前面に出てきてやっています(ここも、水しぶきの映像が効果的に描かれている)。今まで人の並びが斜め横向きだったので、「正面から見るとこうなのか…」と妙に感心したり(笑)。

とまあ、1幕は「なるほど」という変更なのですが、2幕はバリケードがメインになると、やはり舞台の動きに制約を感じるところがあります。バリケードは出てきますが、動かないので、バリケードの表側、裏側の両方が見せられないのです。具体的に書くと、ガブローシュが弾を拾いに政府側の方に降りても盆が回らないので、ガブローシュの姿が見えない。歌声しか聞こえないのです。これはちょっとショックでした。なお、ガブローシュのここの場面の歌は、一度演出変更で最後が「1,2,3」で終わる曲に変わったのですが今回から以前歌っていた歌(「ちび犬でも」という歌)に戻ってます。
そして、アンジョルラスの亡くなった後の姿の登場の仕方……。これはあまりにネタバレなのでさすがに書けませんが、びっくりしました。
逆に学生たちが撃たれるところは一人一人にスポットが当たって死ぬ形になっているので、それぞれがより鮮明な最後を迎えることになっています。

バリケードが出てくる前の「オン・マイ・オウン」の曲は(次の場面のバリケードを準備する都合のためか)舞台パネルがしまって、空間を狭めて歌う形に。

これは舞台美術のせいでもないかもしれませんが、マリウスが「カフェ・ソング」を歌うのは街角で立って歌う形に。今までの演出では、歌うマリウスの後ろに出てくるアンジョルラスたち学生(の霊)が笑顔を浮かべていて、それで私の涙腺が刺激されていたのですが、新演出版ではろうそくを手にした学生たちが無言で笑顔なくマリウスを見つめている形に。歌の後半で、学生たちはろうそくをふっと吹き消して去っていきます。
1回目見たときはこの変更も衝撃でしたが、2回目見たときは、これはマリウスの脳内心象風景なのかな、と思ったらなんとなく合点がいきました。(ろうそく吹き消すところで、新たに涙…)

映像を使う舞台美術ということで、照明も従来とは変わっています。マット・キンリーさんの映像を映し出すには特殊な照明技術が必要なのだそうです(それでスタジオライフのときも照明のニック・シモンズさんが起用された)。具体的に言うと普通は舞台正面から照明を当てるものが、横から照明を当てる形になっています。陰影深く、なおかつ通常のミュージカルの照明と比べると暗く見える独特のものです。(スタジオライフの笠原浩夫さんに取材したときには「今までと違う横からの照明で、初めは動きづらいこともあったが、陰影深く見せてもらえるから演じる上での助けになった」とおっしゃっていました)

その他にも、「ワン・デイ・モア」でテナルディエ夫妻が舞台下から顔を出すのが、建物の上の方から登場、とか、2幕の初めでプリュメ街の引っ越し荷物を運ぶ人を初めて見た!(笑)とか細々といろいろな変更があるのですが、印象に残ったところはこんなところでしょうか。

そして、キャラクター部分での変更。
大きく変わったと思ったのは、舞台が始まってすぐのバルジャン。刑を終えて社会に出たバルジャンが世間の人たちの冷たい態度に当たることで、かなり心がすさんでいる様子が見て取れます。ここで子供が登場する設定に変更になっているのですが、子供に対して邪険な態度を取るところも。「苦労してるのはわかるけど、こういう人には近寄りたくない」みたいな造形になっています。でも、これほどまで彼がすさんでいるからこそ、優しくしてもらった司教の銀の食器を盗むのも理解できるし、その後の彼の心の変化もよりドラマチックになるので、よい設定変更かなと思いました。

演じている人の印象というのもありますが、コゼットも今までより明るいキャラクターになっているようです(日本の『レ・ミゼラブル』の会見のときも「コゼットがよりイキイキしたキャラに」という説明がありました)。

このように、様々な変更があった新演出版の『レ・ミゼラブル』。
私は結局3列目センターと15列目センターで2回観劇しましたが、正直に言えば、もちろん今までからの変更で驚くことも、「ここは変えてほしくなかった」と思うところもありました。でも、最終的にたどり着いたところは『レ・ミゼラブル』らしい感動です。特に今回、胸に響いたのはバルジャンの葛藤と深い愛情でした。言い尽くされていることだけれど、様々な人が実に鮮明に描かれていて、その生きざまの一つ一つが胸に迫る……それが『レ・ミゼラブル』の醍醐味とするならば、新演出版には確かにその感動があったと思います。とりあえず、海を渡りソウルからはるばる移動して、見も知らぬ土地にこの新演出版『レ・ミゼラブル』を見に行ってよかった、と思わせるだけのものはありました。

最後に出演者について。韓国版はシングルキャスト(!)で公演とのことですが、何ヶ月も続く長丁場を一人で乗り切るのは大変だなあと思います。歌唱力の高さが特色の韓国ミュージカルらしく、アンサンブルさんを含めて歌声の素晴らしさが堪能できました。

主演のバルジャンを演じたチョン・ソンファさんは元コメディアンという経歴の持ち主ですが、その後ミュージカルで活躍して、最近は『ラ・カージュ・オ・フォール(韓国語題名はラ・カージュ)』のザザ役を演じている方。豊かな歌声とあたたかみがある演技で、特に「彼を帰して(BRING HIM HOME)」の歌声は素晴らしかったです。誠実に役柄に取り組んでいらっしゃるのだなあということを感じました。カーテンコールでは声にならない声で「カムサハムニダ、カムサハムニダ…」と何度も感謝の言葉を繰り返してらっしゃったのが印象的です。

そして、マリウス役のチョ・サンウンさん。以前は日本の劇団四季に「三雲肇」さんという名前で在籍し、『春のめざめ』のモーリッツ役や『ライオンキング』のシンバ役などを演じた方です。今は韓国に帰国されていて、マリウス役が韓国帰国後の初の大役です。サンウンさんは非常に繊細に役作りされているなという印象です。私が今まで見てきた中では韓国ミュージカルの俳優さんって割と役柄を大づかみでとらえるタイプの方が多い気がするので、サンウンさんの細かい部分にまで神経が行っている演技はひときわ異彩を放っていました。登場シーンで市民に訴えかける歌声の力強さから一転して、恋するマリウスの甘い歌声への変化など、気持ちの変遷がちゃんと歌声に乗って表現されているのですね。「カフェ・ソング」の切ない響きも心に残ります。素敵なマリウスでした。

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2012/11/01

DIAMOND☆DOGS『薔薇降る夜に蒼き雨降る』パンフレット担当しました

昨日初日を迎えたDIAMOND☆DOGS『薔薇降る夜に蒼き雨降る』。パンフレットで、大和悠河さん、東山義久さん、森新吾さん、桐生園加さんの座談会の原稿を担当させていただきました。

DIAMOND☆DOGS10周年記念YEARのラストを飾るミュージカルは、Dとは関わりが深い荻田浩一先生の作・演出。私も昨日の初日公演を拝見しましたが、大和さんの「まるで推理小説を読むように…」という言葉どおり、謎が謎を呼ぶミステリアスなミュージカルに仕上がっています。スパニッシュなテイストを取り入れたダンスシーンの数々もカッコイイ!
ぜひ劇場でご覧いただき、ついでにパンフも手に取っていただけたら嬉しいです。

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