花組芝居「聖ひばり御殿」初日
花組芝居「聖ひばり御殿」初日の公演を拝見する。
「面白うて、やがて悲しき…」という舞台。
救国の乙女ジャンヌ・ダルクの生涯に、昭和の歌姫美空ひばりの生涯を掛け合わせて、「狸御殿」よろしく狸合戦させてしまったという趣の音楽劇。
16年前の初演ではジャン・アヌイの『ひばり』(ジャンヌ・ダルクを主人公とした作品)と同様、ジャンヌの処刑される前の裁判の模様を描いていたが、今回は、ジャンヌの没後25年たったあと、ジャンヌ復権裁判を舞台に描く。
(ちなみに狸合戦なので、ジャンヌ=ひばりにあたる役は劇中の名前「田の君」。皆さん役名が狸っぽくてカワイイ)
没後ということで、田の君は死んでしまってるので出てこない。前半は田の君がこう言ってました~ということで御位牌がしゃべっているという設定に。後半は偶然、田の君と同姓同名だったという「初代田の君」が田の君を演じる、という趣向。(実際の美空ひばりさんも、デビュー前に同名の方がいたそうだ←加納さんの情報収集力はものすごくて、たとえば「田の君ちゃんは見た目は裕福そうに見えるけれど、中身はとても貧しいのね」という台詞=引用不正確です=も、実際に似たような会話がひばりさんの活躍していた芸能界周りであったのだそう)
初演のときは、田の君は佐藤誓さんが演じていて、時代を背負わなければいけなかった女性の生き様を描いていたように思うのだが、今回は時代の寵児となった人を身近に持つ人たちの物語、という感じなのか。群像劇的な要素が強まっているような。
……と、ここまで書いてるトーンだと、真面目~なお芝居っぽく読めてしまうと思うのだが(汗)、そこは花組なので、キッチュに派手に、華やかな場面が連続している。
ある種顔見世のように、皆さんが大技を繰り出しているという印象。
桂憲一さんは田の君と結婚することになる、旭日狸将軍。ハイテンションでぶっ飛んでるキャラなんだけど、その中に昔日のスターが持つべき大らかさも滲ませているところが、お上手なところ。
谷山知宏さん、3役を演じ分けてるのだがそれだけ全然違うように際立っていて、しかも全部めっちゃおかしい。超二枚目で登場していた「ジャックの拳」が個人的にはツボにはまり、インパクト大。
田の君のマネージャーの福ワケルの八代進一さんは海千山千な雰囲気で。途中、暫時「田の君はこう言っていた…」と、田の君の台詞を言うところがあるのだが、その声に利発で凛とした田の君のイメージがまざまざと浮かび上がってくる。
美空ひばり、ということは音楽劇、ということで、一人一曲歌う。お上手な方もいれば、そうでもない方(?)もいらっしゃる。中では、1幕ラストの狸大臣の北沢洋さんと小姓野猫丸の大井靖彦さんの歌がミュージカルな展開で、音楽的にも楽しい聞かせどころか。
昭和らしい雰囲気のコミックバンドが出てきて、熱狂的なファンがひばりさんに塩酸をかけた事件を物語る…という場面もあり。ここの生演奏場面が選曲編曲が秀逸で、とても面白い仕上がり。ここのボーカルは桂さん。
という「面白うて」……という部分が多くを占めながら。
深く胸にしみるのは、田の君という輝く聖なる存在を前にして、身近にいながらも手に触れられない人たちの姿。それは、母(小林大介さん…最後の歌がとてもよかった)の愛であり、超えられない姉を持つ弟(美斉津恵友さん)の苦悩であり。
そして、この裁判劇のために呼び出されて田の君を演じることになった、初代田の君(堀越涼さん)。元スターで引退していた彼女が呼び出され、いつしか「こうでありたかった」存在である田の君に思いを託して成りきって、でも、裁判劇の終焉と共に、輝く田の君だった時間は終わる。田の君の衣装を脱ぐ姿は、自分自身であったはずの田の君が身から1枚1枚はがされていっているようで、見ていてもなんだか辛い。こうあるべき自分と実際の自分との狭間の、透明な切なさが舞台一面を覆い尽くして、「さようなら、ごきげんよろしゅう」と儚く消えていく。
こういう、胸震わせる切なさが加納演出の真骨頂であり、そして堀越さんもそれをうまく演じられたなあと、と思う。
公演は23日まで博品館劇場。29、30日は大阪ABCホール。
※ 前にこちらのブログでも書きましたが(お名前を伏せて)、公演パンフレットで加納幸和さんと白井晃さんの対談記事を担当しております。遊◎機械/全自動シアター時代、花組芝居初期のころからご縁があった白井晃さん。(私も、白井晃さんと高泉淳子さんがゲスト出演した『花組をどり』だとか、加納さんがゲスト出演した第2回『ア・ラ・カルト』を拝見してるので、なんかもう、歴史の生き証人みたいなことになってます(笑))白井さんは昨年堀北真希さんの『ジャンヌ・ダルク』を演出し、今年は篠井英介さんで『天守物語』の演出をされる…ということで、加納さんとは不思議な共通点もあったのですよね。パンフレットもお読みいただけたら幸いです。
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