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2011/06/24

韓国版『ヘドウィグ』

美と毒と絶望と希望をまとった『ヘドウィグ』が大好きなのです。

三上博史さん版の初演と再演(以前のブログに書いたものはこちら
山本耕史さん版の初演と再演(以前のブログに書いたものはこちら
そして、韓国・ソウルでのオ・マンソクさん主演版(以前のブログに書いたものはこちら
ソウルでやった、ジョン・キャメロン・ミッチェルを迎えた『ヘドウィグ・コンサート』(以前のブログに書いたものはこちら
山本さん主演版のラストにジョン・キャメロン・ミッチェルを迎えた『ヘドウィグ・コンサート』

と見てきました。(作品としては上記レビューもご参照下さい)

今回は『コーヒープリンス一号店』や『メリは外泊中』に出演しているキム・ジェウクさん出演の回と、チョ・ジョンソクさん出演の回を見てきました。
順番としてはジョンソクさんを先に観劇し、ジェウクさん版千秋楽の19日を観劇しました。
結果としては両公演見てよかった。同時期にやっている公演でありながら、解釈も演出も全然違うんです! これにはビックリしましたし、『ヘドウィグ』という作品が持つ奥深さをさらに知ることができて、私にとってはとても意義がある観劇でした。

まず、ジョンソクさん版。キャラクター的にはジョン・キャメロン・ミッチェルに近い感じの作り方で、いわば「正統派『ヘドウィグ』」。ヘドウィグ自身が異端の人だから「正統派」っていう言い方もなんか変な感じですけど(笑)。

美しく女装してるのですが、ジョンがわざとやるようなドタドタしたような歩き方とか下品な感じとかもよく出ていて、それがなかなかにヘドウィグらしい。でもその反面、とても悲しみが深いヘドウィグでもありました。プラトンの『饗宴』を元とした、自分と切り離された片割れを愛し探し求める…という歌詞の曲「Origin of Love」をこれほど悲しく歌った人は初めてです。

悲しみ…はもちろん、自分の元を離れていったトミーに対する思いなんでしょう。最後近くの感情が爆発するシーンからラストへとなだれ込んでいく感情の流れは見事。最後にはヘドウィグの魂の解放が伺える明るさがありました。

そして、キム・ジェウクさん版。
ジョンとも、今までやってきた(私が見てきた)ヘドウィグともまったく違うヘドウィグでした。
非常に美しく、下品さやドタドタした感じがまったくないヘドウィグなのです。でもそれも、自分をかばって、よく見せようとしてきれいに演じているわけじゃないんですね。
ジョンソクさんがやっていた、ヘドのわざと下品な振りのところも、まったく違う振りになっていて驚きました。

そういう表層的な(なんていうんだろう、キャンプなゲイっぽい表現?)部分を取り除いて、なおかつヘドウィグでありうる。美しい人の中にある孤独、透き通った悲しみ、切なさ……というのがぐいぐい迫ってくるのですね。

もしかしたら、ジョンのヘドウィグが大好きな方には受け入れられないという方もいらっしゃるかもしれない。でも、私もジョンのヘドウィグが大好きですが、ジョンが作った世界がこれだけ大きな幅を持っているということがわかって、なんだか嬉しかった。
ジョンに見てもらいたい! と思うようなヘドウィグでした。

ある種静謐な、といえるようなイメージを持ちながら、「Angry Inch」とかの激しい壊れっぷりはものすごくて。Hedwig's lament~Exquisite Corpseまでの爆発には息をのみました。
トミーの歌声を聴いた後のヘドウィグのラストシーン。彼がそこでどう思っているのかはわからないけど(このあたりは、ジョンソクさんのような解放の表情とは違う)、そこに彼の中で劇的な変化があったことがひしひしと伝わってきて、ちょっと涙が出ました。
でも、最後に、ジェウク・ヘドウィグがヨロヨロと階段を上がっていく姿は、映画版のジョンのヘドウィグが裸で町をふらふらと歩いて去っていく姿ともなんだか重なって感じられて…。

特に印象に残った変更点としては、ジェウク・ヘドウィグが「midnight radio」でかつらを渡したイツハクの手を取ってくるっと踊って回らせるというとても有名な振りがなかったこと。今まで見てきたすべてのヘドウィグ(日本版も含めて)であった振りなので、これがなくてハッとしました。
これはどういう意味かな…と後からしみじみ(?)考えてみたのですが、この作品の中ではヘドウィグはイツハクを支配し束縛していて、「イツハクの手を取ってくるっと踊って回らせる」ということイコール「ヘドウィグのイツハクに対する支配の解放」ということを意味する振りの気がするのです。とすれば、キム・ジェウク版ではヘドウィグとイツハクの関係が支配被支配というよりも、もっと近しい、同志意識が近い関係ということなんでしょうかねぇ…。

ミュージカルは装置、照明など決まりごとやきっかけが多いので、複数キャスト公演では立ち位置はもちろん、基本的な演出は変えないのが一般的だと思います。
しかし、複数キャストでこれだけ内容を変えてきて、なおかつ本質に迫っていくスタイルを取った演出のイ・ジナさんは相当に素晴らしい才能と感性をお持ちの方とお見受けしました。

イ・ジナさんは「キム・ジェウク版のような演出は今後もあまりできないだろう。ミニマルに演技を解体するのは追求すると思うけれど」というようなことをツイッターで言ってたようです。

さて、
ジョンソクさんもそうでしたが、キム・ジェウクさんもカーテンコールでは客席と一体となって大盛り上がり! こういうノリの良さも韓国で観劇する醍醐味だろうなーと思います。

ジェウク・ヘドウィグの美しさは、日本に帰ってきた今も後を引きますね……。


 

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