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2010/09/20

AMERICAN IDIOT (ニューヨーク)

ここ数年恒例? のニューヨーク観劇旅行に来ています。現在NY滞在中。

深く、心の芯を揺さぶられる舞台に出会った。
「AMERICAN IDIOT」
GREEN DAYのコンセプトアルバム「AMERICAN IDIOT」と最新作「21世紀のブレイクダウン」の曲を使った、90分のショー仕立ての作品。
前触れもなく突然始まった舞台の激しいパフォーマンスとスピード感に、冒頭から強く心を駆り立てられる。
※ 以下ラスト部分などに触れてますので、これからご覧になる予定がある方はご注意下さい


ストーリーはロックオペラでもあるAMERICAN IDIOTの設定にのっとっている。その点はTHE WHOの同名のコンセプトアルバムに基づいたミュージカル「TOMMY」と同系統で、いわゆるカタログミュージカルとは一線を画すものだ。アルバム「AMERICAN IDIOT」はGREEN DAYのメンバーの、イラク戦争に対する激怒の気持ちが元となって作られた作品、とのことでさる。

閉塞するサバービアという郊外の町を抜け出した若者。一人は彼女が妊娠して結局町を出られず、一人は戦争に行って片足を失い、もう一人はドラッグに溺れた後、普通のサラリーマンになり、サバービアに戻ってくる…という話。そう、そんな「アメリカのバカ者(AMERICAN IDIOT)」の話だ。

見る前は「内容がない、ストーリーが薄い」という評判も聞いていたのだけれど…、私は個人的には強いメッセージ性を感じた。
それは。
今はアメリカのバカ者だけど、でも、それで終わりたくない…という気持ち。
(実際にはバカ者で終わってしまうのかもしれないけれど)

なぜ、それを感じたかというと、
ドラッグに溺れた青年JOHNNY役のJOHN GALLAGHER JR.から伝わってきた強いエモーション。焦燥感、苛立ち、衝動、その奥に潜む弱くナイーブな心…、ストーリー展開でわからせるのでなく、GALLAGHERの演技で、どうしようもなくバカであったJOHNNYという人の生き方がリアルに見えてくる。

3人はサバービアに帰ってくる、という結末は知っていて見たので、「さてそこで、どうなるの…?」というのが気になっていたのだが、
JOHNNY は「IT’S THE END OF BEGINNING」「THE END OR BEGINNING」と呟く。「THIS IS MY LOVE ,THIS IS MY LIFE」と。

【3年前のブログですが、訂正! 今日来日公演を見たところ、「THE END OF BEGINNING」でなく「THE END OR BEGINNING」と言ってました! 2013.8.9記】

田舎に戻ってバカだった現状に立ち戻るのではなく、そこからのあがきを感じる台詞なのだ。ここに、作者でもあり、演出でもあるMICHAEL MAYER(SPRING AWAKENING =春のめざめの演出家)の視点を感じることができる。

(余談だが、「SPRING AWAKENING」のモーリッツ役で「IT’S SO DARK,DARK…」と言って自殺していった役をやったGALLAGHERが、今度は「これは始まりなのか終わりなのか→第二章がある」と言ってることが何か嬉しい。

そういえば、SPRING  AWAKENINGも、原作では死後のモーリッツはメルヒオールを死の世界に導く霊になったのに、ミュージカル版のモーリッツはメルヒオールを生きる方向に向かわせる霊という設定に変えているのだ。MAYERさんって、若者のリアルな姿を描きたい、そして、彼らを見捨てないというか、決して絶望では終わらせない、生きる方向に持っていきたい、という気持ちが強い人なのではないか、と一連の作品から感じさせられる)


もう一つは、ヒロイズムから戦争に行き、片足を失ってしまうTUNNY(STARK SANDS)の存在。何より戦闘シーンのリアルな感覚に驚く。これは日本人では表現し得ない…、911とイラク戦争を経て、戦争が身近であり、自分たちと地続きになっているアメリカンの若者の現状を感じさせられて、息を呑む。(戦闘シーンのバックには、あの、湾岸戦争のテレビゲームのような映像が映っている)

片足を失った彼が夢を見る(?)場面で、アラブのお姫様と空中アクロバットダンスみたいなのを繰り広げるシーンがあるのだが、イラク戦争に行った人たちは「自分は、囚われているアラブのお姫様を救い出すヒーローだ」みたいなイメージを持っているということを表現しているのかなと思う。

このように、演じ手に絵空事でない、生きた、血の通った感覚があるから、ショー的なパフォーマンスの中でも一本強い芯が通って、非常に心を揺さぶられたのだと、私は思う。

ショー的な部分でも非常に秀逸で、うわー、カッコイイと思う場面が目白押し。
何より出演者がアンサンブル含めイケメン多数(笑)←これ重要。

モニターを沢山使った舞台は、いのうえひでのりさん演出の「SHIROH」などで見ているのでそれほど珍しくはない気がする(そういえば、SHIROHも時代物の形を借りて、現代の戦争とは…?というのを描いた作品だった)。が、非常にタッパが高い舞台の上まで飾って、上手奥の階段を使って立体的に造形してあるのと、たとえば、TUNNYが戦争に行くシーンでは、全モニターに星条旗が表れ、同時に、照明によって空高くから星条旗がヒラヒラと落ちてくるのを表すなど、複合的な表現があるのが面白く、効果的だ。

特にカリスマ的な存在感を持っているのが、ST.JIMMYのTONY VINCENT。ドラッグの売人でもあり、皆を麻薬の世界に引きずり込む悪の存在でもあり、実はJOHNの分身という役を、異質で異様で異形に……といくつもの「異」という形容詞をつけたくなるくらいのインパクトで演じる。圧倒的なパフォーマンスだ。

と、いろいろとほめてきたけれど、難点としては、女性たちの人間像があまり描かれていないこと。もともとの設定が男性3人の話だから仕方ないかもしれないけれど、ステロタイプな「男性に対する女性」という感じで、主体的な存在でなく、相対的な存在になっているところが、個人的には気になった。

ともあれ、キリキリと胸に迫るような切迫感と激しい感情、圧倒的なパフォーマンスは、まさにロック。
911後の若者のリアルがこれでもかとばかりに突きつけられる。
激しいパフォーマンスの後の静寂……。THIS IS THE LIFE。それは、舞台にいる若者たちの架空の出来事でなく、今の世にいるバカ者である私たちもこれからどう生きればいいか、考えずにはいられない。
これは、日本では見られない作品だと思う。

今秋のニューヨークで一番衝撃を受けた舞台になった(まだ未見のものがあるので、今の時点で)。

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