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2009/12/20

「パンジー・メイズ」と山吹

スタジオライフ若手公演『パンジー・メイズ』を観ました。
『トーマの心臓』などの耽美色の強い路線になる前の、倉田淳オリジナル作品を上演するというもので、1987年初演作品。概ね当時のままの台本で上演されているようです。
15日に関戸博一さん主演版で観劇。19日に青木隆敏さん主演版で観劇。15日はパンフを読まないで観劇していて、観終わった後にパンフを読むと、作・演出の倉田淳さんのコメントに「泉鏡花の『山吹』にインスパイアされて、なんとか舞台に出来ないかと思って、この脚本を書いた」とありました。

泉鏡花の「山吹」……! 見ているときはまったく気づかなかったけれど、言われてみれば確かに「山吹」だ。
私は「山吹」の戯曲も、歌舞伎座で上演された舞台(2006年)も見てます。(「海神別荘」が読みたくて買った文庫にたまたま「山吹」が入ってたので、読んでみた)最初に読んだときの感想は「この戯曲は今の日本では上演できないだろう」というもので(苦笑)。レーゼドラマ(上演を前提としていない戯曲)のようなものかな、とも思っていたので、「山吹」を舞台にしたい、と思われた倉田さんとはエライ違いです(汗)。

確かに思い返せば、「山吹」のエッセンスが倉田さん流に組み込まれていて、2度目の観劇時は「山吹」も意識しながら見られたので、初見時とは違う視点から見ることができて(結果的には)よかったかなと思ってます。

(余談ですが、私が初めてライフを観たのは「YASHA GA POND」という「夜叉が池」を元とした作品だったので、本当に久々に、倉田さんの泉鏡花原作作品を見られたことになります)

舞台は、大ざっぱに言うと
「嫁ぎ遅れ」OLの幸子は上司の課長と不倫するも満たされず、高校時代に憧れていたバレー部のコーチへの思いを忘れきれずにいた。やがて、夢とも現実ともわからない迷路のような世界へと迷い込んでいき…。

というストーリー。現実の世界から、幸子は迷路(メイズ)に迷い込んでいくのですが、夢というか、自分の精神世界に旅しているようです。

関戸さんの幸子で印象に残るのは「変わりたい、変われない」という台詞。たった10文字の台詞ですが、今の自分から変わりたいという気持ち、しかし、現実として変われないという諦めにも似た思いが、共に切実に伝わってきました。関戸さんの幸子は、迷路を経て、変わりたい→変われない→変わろうという気持ちの変遷がよくわかるものでした。

青木さんの幸子で印象に残るのは「苦しい、切ない」という台詞。「山吹」で老人に鞭打つ夫人と同じように、迷路の世界の門番(恋の罪の呵責に悩み、贖罪のために鞭打たれることを望んでいる)を鞭打ちながら、搾り出すように叫ぶ台詞です。…なんかもう、すごかったですね。ここまで、自分を(役を)吐き出せる役者さんはなかなか見たことがないです。ここで自分をすべてさらけ出すことによって、すべてが癒され、(過去の呪縛から?)許される幸子に変化する様子にも目を見張りました。(次回『トーマの心臓』ユーリの前哨戦でもあるようです)

ラストシーンは、門番など、迷路の世界で出会った人々(=幸子の分身?)と共に船に乗る(旅立つ?)という設定なのですが、関戸さんの幸子だと、不倫も清算し前向きに実社会を進んでいきそうに見えますが、青木さんの幸子だと、もしかして精神世界に深く沈んでいくのかも…?という解釈もありそうです。

石飛幸治さんの門番は深く暗いものを背負っている姿が印象的。吉田隆太さんの幸子の同期OLは会話のテンポがよく、おきれいでした。もう一役は迷路の世界の小人。原田洋二郎さんと共に、女性をグロテスクにデフォルメした魔女、みたいな小人が幸子と出会って次第に変わっていく様子を丁寧に見せてくれました。

「日本劇団協議会 次世代を担う演劇人育成公演」であるこの公演、育成対象の若手は、現実世界での幸子の同僚と、迷路の世界の住人の2役を演じてますが、倉本徹さんと一緒に演じていることできっといろいろ刺激になったはず。テンションとパワーを芝居に乗せて、頑張っていただきたいです。
同じく育成対象の仲原裕之さんは急病で休演されていたところの復帰公演初日を見せてもらいました。登場シーンで拍手が起こったり。前半は爽やかに、迷路の世界のコーチは一転した姿を見せて、なかなか魅力的です。

時は過ぎ去り、失われてしまったものを惜しみ、懐かしむ気持ちは誰しも持っているもので。
その気持ちにどう対峙し、どう生きていなければいけないのか……繊細に自分を見つめる、倉田さんらしい作品です。『トーマの心臓』のテーマに近いものも感じ、(『WHITE』を見たときと同様)倉田さんの原点を感じることができる『パンジー・メイズ』でした。

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