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2008/05/26

ウォーキングスタッフプロデュース「剃刀」

「剃刀」というタイトルとおり、鋭利な薄い刃の紙一重のところを突きつけられたかのような舞台。

1時間半ノンストップで進む舞台は大正時代の戯曲を演出の和田憲明さんが書き直したもの。
親から継いだ床屋を営んでいる為吉(加納幸和)。彼は自分がただ髪を切り続ける機械になってきたような感覚になっていた。もと酌婦という色っぽくも美しい奥さん(中川安奈)にもちょっかいを出そうとするような床屋の常連客がいて、気を揉んでいるところもある。
男性にも未来を切り開こうとしていた時代があった。ただ、お金がないために床屋を継がねばならなかった。そんな鬱屈した思いをしている中に、自分の元の同級生で今は東京で代議士先生をやっている人が髪を切ってもらいに現れて…。

冒頭から、為吉が客のひげをそっている場面が表れる。最初は気持ち良さそうに見えるのに、だんだん話が進むにつれて「気軽にひげを当たってもらっている客は、実は命を剃刀を握っている為吉に預けていることになるのだ」というのが見えてくると、ただひげを剃っている光景が恐ろしくスリリングなものに見えてくるのだ。

この見え方の違いに、演出の和田さんらしい研ぎ澄まされたものを感じる。

(以下、結末部分に触れてます)
最初にパンフレットを見たとき、原作の結末部分が載っていて、それは床屋の男性が代議士を殺害する、というものだった。
今回見た舞台では、和田さんの改作により、マルチエンディング、というか、為吉の頭の中で代議士を剃刀で切る様子が描かれたあと、それが幻想であって、実際には切りつけることなく、為吉は呆然として鏡を見据えて終わる…という結末に。

代議士を切りつけていたら、それはそれで身分やお金やヒエラルキーでがんじがらめになっていた自分を解放させることにもなったのだろうけれど、結局彼は、深い絶望を背負ったまま、もとの日常に帰っていくことを選ぶ。
この後一勝背負っていくだろう心の闇を深く覗かせる結末にぞくっとさせられる。

町に一軒しかなくてお客が絶えない床屋なら社会的には成功してると考えられなくもない(仕事なくて困ってる人だって大勢いる時代だろうし)。成功者だと思われている代議士だって、東京に出れば、大勢いる代議士の一人に過ぎないかもしれない。そんなヒエラルキーの中で、なんとか人間らしく生きようともがき続ける為吉は、とてもリアル。なんだか、自分自身の生き方というものも突きつけられ考えさせられている感覚になる。

大正時代の床屋の雰囲気を見せるセットの真ん中には掛け時計。それは止まることなく1時間半の時間を刻み続ける。これは、「機械」になった為吉の象徴でもあるのか…。

それにしても、屈折した心情を抱いた男性を演じるとき、加納さんはすごい色気を発しますね。

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