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2008/03/26

加藤健一事務所『思い出のすきまに』

加藤健一事務所『思い出のすきまに The Drawer Boy』拝見しました。

人の心のつながり、思い、切なさ、そして温かさがじんわりと舞台からにじみ出てくるような作品。とても心に残る佳作は、男優による3人芝居。

1970年代のカナダ。記憶に障害があるアンガス(加藤健一)と幼馴染の農夫モーガン(新井康弘)と一緒に暮らしている。二人きりの生活に突然現れたのがマイルズ(山本芳樹)という青年。農場を舞台とした芝居を作るための取材で、ここでバイトさせてもらえないかと申し出てきたのだ。

記憶が長時間持たないアンガスのことを、なぜモーガンは一緒に暮らしているのか…? そこにはモーガンがアンガスに隠していた過去があって。モーガン自身の弱さと、そして、アンガスへの思いやりが徐々に伝わってくる。

「演劇をする青年」マイルズが彼らの変化の媒介というか起爆剤になっているのもなかなかに象徴的。ちょっと考えると図々しい感じ?で2人きりの生活にいきなり入り込んでいくマイルズ。でも、人の心に真ん中に力づくでも入り込んできて、人の心を動かして何らかの影響を与えることができる……って演劇そのものも持ってる力だなあ……などということも改めて気づかされた。
どこか憎めない愛嬌があって、でもとても繊細な一面もあって、そして彼らの心を揺り動かす媒介でありうる青年マイルズを山本芳樹さんは巧みに表現。前作『アドルフに告ぐ』や加藤健一事務所『モスクワからの退却』などを経て、表現者として一段階ステップアップした感がある。(2幕目の冒頭で、ハムレットを自分の物語として語る姿も面白く見せてくれた)

そして、脳に障害を受けて、記憶が長くは持たないという難役アンガス役の加藤健一さん。終幕近くモーガンの言葉を聞きながらじわっと涙を浮かべるアンガスの姿に心打たれる。新井康弘さんは昔のアイドル時代にテレビで見ていた後はテレビドラマでちらっとお姿を拝見していたくらいで舞台では初観劇。朴訥だが心根の太い男性の役を見事に表出して、「ああ、(寡聞にして私が知らないうちに)良い役者さんになられてたんだな……」ととても嬉しい驚きがあった。

カナダ人作家マイケル・ヒーリーの作。カナダ戯曲というと、私が見てるのは強盗4人組の話『ハイライフ』、麻実れいさんがサラ・ベルナールの晩年を演じた『サラ』と、Studio Lifeの3作品『LILIES』『孤児のミューズたち』『決闘』くらいか。今まで見たものと、今回の『思い出のすきまに』も含めてカナダ戯曲はあまり結論がこちらに押し付けてこないというか、奥深い広がりを感じさせるような作品が多い気がする。多様な解釈ができる余地を残してくれているというか。今回も、しっかりと心に残る芝居が見られたのが嬉しい公演だった。

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コメント

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投稿: UK-JAPAN2008WEBサイト運営事務局 | 2008/04/03 11:43

おけいさん、こんにちは!
日本では映画の「博士が愛した数式」あたりから、記憶が一日しか持たない人、という設定のものが増えてきたような気がします。この「思い出のすきまに」は1999年の戯曲なので、日本で記憶障害もの(?)がはやるよりちょっと前に書かれたことになりますかね。

「ガマザリ」は4月に入ってから行きますよ~。
>吉田鋼太郎さん
なんだか似合いそうですね(笑)。拝見するのが楽しみです。

投稿: おおはら | 2008/03/28 19:33

記憶に障害があるという設定、最近多いんですかね?
パルコの『MIDSUMMERCAROL〜ガマ王子vsザリガニ魔人〜』を観たんですがそれにも記憶が一日しかもたない女の子が出てきました。
吉田鋼太郎さんがクソ意地悪いひねくれ老人を演ってるんですが、その少女に会ってかわっていくという話。うまい役者さんが沢山出ていたし面白かったです。ご覧になりました?

投稿: おけい | 2008/03/28 00:40

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