« Top Stage54号発売中 | トップページ | 明けましておめでとうございます »

2008/01/01

Studio Life『アドルフに告ぐ』

07年観劇納めはStudio Life『アドルフに告ぐ』。ダブルキャスト公演で20日のゲネプロで山本芳樹さん主演チーム、27日に荒木健太朗さん主演チームを拝見してきました。

アドルフという名前を持つ3人、アドルフ・ヒトラー・シューレ(学校)からナチスの将校になる日独ハーフのアドルフ・カウフマン、日本に住むドイツ系ユダヤ人のアドルフ・カミル、そして、アドルフ・ヒットラーの1936年~1973年までの姿を描く力作です。
手塚治虫の原作は5巻の長尺の漫画なのですが、それを3時間で圧倒的なスピードで進めていきます。最初に拝見したときは、そのスピード感と、全百役以上の登場人物を出演者29人が入れ替わり立ち変わり役代わりで演じるめまぐるしさに、打ちのめされそうになりました。
でも、これは長い年月を圧縮して見せることにとても意義がある芝居なのだな…ということに最後を思い至ります。

初めは神戸に住む異邦人同士としてユダヤ人少年カミルと固い友情を結んでいたカウフマンが、あんなにいやがっていたアドルフ・ヒットラー・シューレに行く。ユダヤ人を嫌えないと思っていた彼が、やがて「ユダヤ人は皆ダメだけど、カミルは別だ」と思う。そして、最後には、ユダヤ人少女エリザ(吉田隆太)を二人が思うようになったことから徹底的にカミルを憎み合い、ヒットラーのために奔走し、やがてヒットラーの死のときを迎える…。彼がどういう変遷で変わっていったかというのが、手に取るようにわかるのは、長い年月を3時間という時間で圧縮して見せていたからだと思います。特に山本芳樹さんのカウフマンは心情の変化を細やかに描出してみせてくれました。彼がヒットラーの死で「アドルフ・カウフマンは道化でござい」と激しく取り乱す様子は、あまりにも悲しいのです。
(その後の場面で、天皇の終戦宣言のテープが流れますが、当時これを聞いてカウフマンのように慟哭した人も多かったんだろうな、とふと想像してしまいました)

ナチス、というと悪の権化のように思ってしまって、自分とは切り離して考えてしまいがちです。が、ここで描かれているのは、良い部分も悪い部分も持った人間がどうして悪に特化してしまうのか、という過程。「心の中の良い種と悪い種」という、いつものように(^^;ゞ『トーマの心臓』の言葉を借りてしまいますが、人間としてちゃんと良い種を持って生まれてきたカウフマンが、運命に翻弄され、悪い種だけが芽を出すようになってしまうのだろう、ということを自分の問題として深く考えさせてもらえる舞台でした。

一つ注目すべきなのは、ユダヤ人少年カミルを演じていた役者さん、小野健太郎さんと松本慎也さんが、ダブルキャストではアドルフ・ヒットラー・シューレの少年を演じているということでしょう。ここからも、ただユダヤ人=被害者で可哀想、というだけはない(生まれる場所が違えば、ユダヤ人にも、ヒットラーユーゲントにもなりうるのだという)、演出家の鋭い視点を感じざるを得ません。

終幕は原作に付け加える形での終わり方をしています。すべてが終り、再び舞台は1936年の冒頭へ。カーテンコールも多くの役を兼ねている皆さんも1936年の扮装に変わってます。もしかしたらもっと違う未来もあったのでは……と思わせるラストが胸に残ります。

ダブルキャスト公演で、山本さんカウフマンのときのカミルは小野健太郎さん。まっすぐな生き方をしている男の子、という感じがよく伝わってきました。もう一つのチームは荒木健太朗さんカウフマンと松本慎也さんカミル。少年時代の仲の良さや心の通じ合いの過程がうまく表現されている分、その後の悲劇性が際立っていたように思います。

狂言回し役を兼ねる峠草平役の曽世海司さんが明確な芝居で舞台を進めていきます。学生時代運動部の選手だったという設定で、途中で刑事と追いかけっこする場面のコミカルさは手塚漫画の息を伝えていて、面白かったですね。
漫画そっくりのビジュアルに驚くランプ役の倉本徹さん。「狂った指導者の下にいるには自分たちが狂っているしかない」という、その時代を生きる人間の冷徹な目が記憶に残ります。これまた本人そっくりのヒットラーの甲斐政彦さん。狂気の奥にある彼の人間性を感じさせる芝居を見せてくれました。短い出番で日本人大佐としての生き方を印象付けた石飛幸治さん。その息子役の仲原裕之さんも信念ある青年をキッパリと演じてました。

『アドルフに告ぐ』、人間の存在の根底の部分まで見据えようとする作り手の強い意思を感じさせる作品でした。

|

« Top Stage54号発売中 | トップページ | 明けましておめでとうございます »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/34077/17541514

この記事へのトラックバック一覧です: Studio Life『アドルフに告ぐ』:

« Top Stage54号発売中 | トップページ | 明けましておめでとうございます »