2016/06/04

あやめ十八番『江戸系 諏訪御寮』

漆黒に黒を塗り重ねたような、闇。
そんな深い闇を感じさせたのがあやめ十八番初の再演作品となる『江戸系 諏訪御寮』。
脚本は初演当時のままとのことだが、美術は初演の床面に大きい陰陽マーク(勾玉形の)と二角を白い障子が囲むものから、今回は同時上演の『ゲイシャパラソル』と共通の、正方形の黒い舞台に(客席二面)。LEDで鮮やかな色合いを印象付けた『ゲイシャ~』とは対照的に、この「漆黒」が、「鬼が死んだ赤ん坊をよみがえらせる」命を借りる物語でもあるこの作品を、さらに際立たせる。

初演は2014年で、そのときの感想はコチラ(「ある意味、EVERYTHING IS RENT~あやめ十八番『江戸系 諏訪御寮』を見ました」)。十六島にある鬼の伝説と「拝み屋」の諏訪家と篠塚家の物語、拝み屋の過去の怪異譚が絡み合うストーリーはもちろん同じだけれど、総合的な見せ方が洗練されて、音楽との緩急などから、複雑な筋立てをよりわかりやすく見せられるようになった印象(私が、堀越さんの作風を見慣れたせいかもしれないけど)。
また、お線香の匂いがするお札とか、火鉢の使い方とか、現実に根差したリアルな描き方、というか、リアルの演劇へのすくい上げ方もうまいなあ、と思う。

いろんな要素がある物語の中で、初演の感想にも書いたとおり、堀越さんの死生観、喪ったものたちとどう向かい合うのか、というのが個人的には印象に残る。
喪われたものは、いつか、かえってくるのだろうか。
2時間の物語にたゆたう内に、そんな思いが浮かんでは消えていく。

さて。演者では、御寮さん役の金子侑加さんが日本人形のような外見と「神性」さえ感じさせる演技で、鮮烈な印象を残した。土佐まりなさんの「少女」と美斉津恵友さん諏訪家次男春平との恋が瑞々しい。

劇中、扉をコツコツと叩く音にぞくっと背筋が寒くなるものを感じる。「怖い話をやろうというわけじゃない」と最初の口上で堀越さんが言っているけれど、心の中に素朴な恐怖心(畏怖心?)がかき立てられて、そんな心の隙間に物語のあれこれがしみわたっていくような舞台でもあった。

新たな代表作となるであろう新作『ゲイシャパラソル』と初期の代表作『江戸系 諏訪御寮』で、演劇的成果は高かったと思う二作品同時上演だった。

公演は5日まで、サンモールスタジオにて。チケット完売で、キャンセルが出たときのみ当日券が出るとのこと。


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2016/05/31

あやめ十八番『ゲイシャパラソル』

鮮やかに、花が開いた。
あやめ十八番の新作『ゲイシャパラソル』で、堀越涼さんの作劇が一段階大きくなった、という印象だ。
平成60年代の東京深川、芸者のお座敷が舞台。
擬古典ならぬ擬大正時代(?)のような、大正か昭和初期の雰囲気で未来の東京が語られる作品だ。


公演のパンフレットで堀越涼さんのインタビューをした関係で1シーンの稽古を拝見して中盤までの(結末まで至らない)台本を読んでいたけれど、パンフレットでも書いたとおり、話がこの先どう展開するかはまったく予測がつかず。これは初見のお客様が作品途中で抱く感想ときっと同じだと思うのだが、果たして本番で通して見て、ラストに至るまでの押し寄せるような展開に引き込まれた。劇中「ファンファン」と呼ばれる中国の台頭の話や名前の売買、戸籍を売った日本人たち、選挙の裏面などそれだけで一つの物語が書けそうな素材をたくさん投げ込み、粒立たせ、さらにそれが一人の芸者の恋に収束する。


印象が際立つシーンはたくさんあって。
自分の名前を売った芸者たちが名乗りを上げるシーンの鮮烈さ。不見転芸者(小口ふみかさん)と幇間(安東信助さん)の切ない恋。冒頭のダンス(振付ミヤタユーヤさん)。あるいはお座敷遊びのトラトラ、金毘羅船々の現代的なアレンジ(楽隊の吉田悠さん。今まであやめ十八番の音楽を担当していた吉田能さんとはご兄弟なのだが、能さんよりももっとソリッドでシャープな感覚があるのが作品に異化効果をもたらした)。
こんな様々な要素がぶつかり合わずに一本の芯に収束していくのは、堀越さんの手腕であって。また構造的にも、今までは重層的に物語が錯綜するスタイルの作品が多かったが(『江戸系 諏訪御寮』『淡仙女』など)要素は多くても、構造はそこまで複雑でなく、なおかつ観客がついていけなくなりそうなところは野良猫(木原実優さん)が説明してくれるので(笑)、今までよりストーリーラインはつかみやすいものになっていると思う。


そして、芸者。今の20~30代の作・演出家の方で芸者の世界がリアルに描ける人が他にいるかと考えるとそれは稀有なことだと思う。堀越さんが花組芝居『花たち女たち』などで芸者の役を演じている経験を活かし、また出演者もその演出に応えた。(演技的にはやはり堀越さんが演じる菊弥の芸者としての存在の仕方、「擬大正」の時代感は群を抜いているけれども)


ここで語られるのは深川でただ一人、名を売らない芸者、仇吉。実際に深川芸者は男名前をつけていたそうだが、そんな「意気と張り」を持つ彼女の内面が徐々に明かされていくのが一つのドラマとなる。演じるのは大森茉利子さんで、個人的には大森さんが演じて私が拝見したものの中では一番好きかな。前半の強くきつい芸者から、彼女の秘められた過去と恋にフォーカスし内面を見せる変化が瑞々しい。彼女の演技からふと「自分の存在って何だろう?」と思いを巡らせるものがあった。(強いて言えば、前半のきつい部分にももう少しいろんな色が見えてくれば、より素晴らしいかと)

そして、過去に仇吉と恋をした傘職人の笹木晧太さんが、すがすがしい存在感で回想シーンを彩る。


存在感といえば。
あまり小劇場の舞台では出てこないような「実存感」があるキャラクターが出てくるのも見どころ。実際に新内語りのお師匠さんでもある新内勝喜さんが三味線を演奏し、芸者に歌(芸)を教えるシーンがある。また、冒頭から登場する「おもらいさん」役の森川陽月さん。物語のキーになる重要な人物で、終わった後に思わず堀越さんに「あの人は誰ですか!?」と聞いたくらい(笑)、どろっとした、心をざわつかせる存在感があった。聞けば、長年演劇と関係ない仕事をしてきて、57歳にして役者を目指して上京された方とのこと。こういう方を見出して(オーディションにいらしたのかな?)適役に起用されるのも、堀越さんの慧眼かなあと思う。また、お座敷で端を発して「政治」的な攻防を繰り広げる男性二人、和知龍範さんと塩口量平さんは肚が据わったところを見せた。


こうしてつらつらと書いてきたけれども、そして普段は職業柄か芝居を見て「ここがこうで、こうだから→この芝居は面白いんだ」と自分の中で編もうとするところがあるのだけれど、うまくその枠組みにはまらないところがあるのを感じていて。あらゆる要素が有機的に絡まって、総合的な一つの塊として、この作品が演劇として面白いと思ったんだなー、と思う。この作品はこういうテーマ!と一言で言えるのなら、演劇にする必要もないし、とにかく125分、作品の世界に没入していたのは確かだ。
『ゲイシャパラソル』、あやめ十八番の新しい代表作の一つとして、花開いた(傘の花も)。

公演は6月5日まで、サンモールスタジオ。『江戸系 諏訪御寮』と交互上演。

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2016/02/26

新宿公社『ノンフィクション』観劇しました

新宿公社の旗揚げ公演の初日を観劇。以下感想。

新宿公社は作・演出を担当する小林弘幸さんが主宰。ラッパ屋などに出演されている青野竜平さんとの二人ユニット。小林さんはあやめ十八番や花組芝居の『毛皮のマリー』などの演出助手を担当されていた。脚本としては初めて書いた作品だそう。

壁、をモチーフとした話。近未来かパラレルワールドか、一つの民族が壁を隔てられている(東西ベルリンとか韓国北朝鮮のような設定?)世界と、そこから十数年後の壁がなくなった世界が交互に語られる。時代が細かく行き来するので、初めは「?」と思うけれど、この構造に気付くと話はすんなり読み込めてきて。これに、心の壁を乗り越えられない恋愛のあり様が絡む。『ノンフィクション』というタイトルが、これが今の小林さんの実感した世界、ということか。

壁がある時代と比べて、壁がなくなった後の方がより閉塞しているという状況の描き方が小林さんの視点。壁があるという閉塞感を感じながらも、声高に何かを言うんでもなく、どこか淡々と過ぎていくのが、今の若い方(小林さん、25歳だそう)の感覚なのかな、と思って見てました。個人的には、恋愛パートよりも「壁がある世界、なくなったあとの世界」の要素をもうちょっと見たかった気もします。
音楽(懐かしい歌謡曲)の使い方があやめ十八番ぽいかな、という気もして、芝居の全体のトーンだともうちょっと違う感じのものの方が効果的だったかもしれない。

とはいえ、2時間をちゃんと最後まで飽きさせないで引っ張ったお力は確かなものだと思うし、旗揚げにしてこれだけのキャスト(女優さんに美少女多数)を集められたのも目を見張る。

ちなみに、以前小林さんはコントをやっていて(コントユニットだったか?)コントの台本を書いていらしたとのことで、作家の長岡(青野竜平さん)と新マネージャーの神宮寺(袋小路林檎さん)とのやりとりがテンポがよくて面白かった。(特に袋小路さん、間合いがいい)

地に足がついた趣のある青木竜平さん、線が細いナイーブな青年像を描いた小林さん。そして、この世界にぐっとリアルな色付けをした奥田努さんと土佐まりなさんのヒロインぶり、と役者さんの生かし方もなかなか達者。

多分いろいろ書きたいことがたくさんあるんだろうなー、と思いながら、きっと公演を重ねていけば小林さんの、新宿公社としての色が明確になるんだろうなと、今後に期待。当日パンフには新宿公社第2回公演2016年夏『凱旋』とありました。

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